“四号特例”は縮小?廃止?改正内容の詳細や経緯・今後の影響について解説
今年2022年4月22日に、「4号特例縮小法案」が国会に提出されて衆議院を通過しました。
このニュースは、一般の方の間ではそれほど注目されていませんが、建築、とかく小規模の木造住宅に携わる設計事務所や工務店にとっては非常に大きな出来事です。
しかし、まだまだその概略しか知らない方も多く、詳細は行き渡っていないのが現状でしょう。
そこで、今回はこの“4号特例縮小案”について概略や経緯、今後の影響について解説します。
目次
■ そもそも“四号特例”とはどうしてできたの?
■ 2022年改正までの経緯や変更点は?
■ 建築業界の反応は?
■ “施主への誠意ある説明”が受注拡大のカギ
目次
■ そもそも“四号特例”とはどうしてできたの?
「四号特例」というキーワード自体は、建築業界に携わっていると一度は耳にしたことがあるでしょう。
これは、建築基準法第6条の4(建築物の建築に関する確認の特例)の中で明記されており、特定の条件を満たしていれば、建築確認審査の一部を省略できるという規定です。
現時点で四号特例建物に認定されている建築物は、建築士が設計をした建物でさらに以下のに該当するもので、日本の住宅でも最も多い在来軸組工法2階建てはほぼ全て該当します。
- 特殊建築物ではなく、不特定多数が利用しない建物
- 木造2階建て以下の建物
- 延床面積が500㎡以下の建物
- 建物高さが13m以下もしくは軒高さが9m以下の建物
では、なぜこれらについて建築確認審査を簡略化したのでしょうか?
それには、今までの時代背景が大きく影響しています。
1981年
建築基準法の改正
この年に建築基準法の大規模な改正が実施されました。いわゆる「旧耐震基準」から「新耐震基準」への改正です。
1978年に発生した宮城県沖地震や伊豆大島近海地震による甚大な被害をきっかけに、木造住宅においても震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊しない程度の耐震性能が義務付けられました。
1983年
「四号特例」の開始
景気が上向き始めた当時、住宅建築棟数が増えて建築確認審査に関わる行政職員の人材不足や業務過多が問題視されていました。
そこで、確認申請がスムーズに進められるように、他の建物と比べても審査が簡単で必要性が低いとされていた「四号建築物」に対して、内容を一部省略化することが決定しました。これによって、審査にかかる負担が格段に軽減されて、期間も短縮しました。
■ 2022年改正までの経緯や変更点は?
冒頭でもお話しした通り、今年2022年4月に国会に「四号特例縮小法案」が提出されました。
実はこれは今回が初めてではなく、これまでも「四号特例」の是非については議論が繰り返されており、それがようやく“縮小”という形で決着したのです。
では、なせ今「四号特例縮小法案」が再び提出されたのでしょうか?
また、どのような経緯で縮小に至ったのでしょうか?
その発端は、1998年にまで遡ります。
1998年
建築基準法が再び改正される
1981年以降大きな改正はありませんでしたが、この年に再び抜本的な見直しがされました。最も大きなポイントは、「確認審査及び完了検査の民営化」です。
それまでは、行政に属した建築主事が審査・検査業務を行なっていましたが、民間の指定検査期間でも請け負うことが可能となりました。
2005年
耐震強度偽装事件が起こる
業務が民営化したことにより、厳格かつ適正な建築確認審査が行われ、それに伴い完了検査の実施率が上昇し違反建築物件数が大幅に減少しました。
しかしその一方で、審査期間によって審査レベルに差が出たり、十分な審査が行われていなかったことも明らかになり、同年に国土交通省はマンション20棟・ホテル1棟の耐震構造計算書に偽装があったことが発覚した旨を公表しました。
それをきっかけに国土交通省が行った緊急検査においても、一部の指定審査機関だけではなく行政でも審査内容に不備があったことが露呈し、「四号特例」についてもその必要性が疑問視され始めたのです。
2006年
四号特例廃止法案が発表される
特定の建設会社が施工した新築分譲戸建住宅において、約1,000棟で壁量規定を満たしていないことが発覚しました。これは、「四号特例」で審査が省略されたことによって、誰にも不備が指摘されないまま建設・販売されたことが原因とされています。
また、この時点の建築基準法は、違反建築を行った施工会社には何の罰則も与えられず、確認申請を行った建築士個人のみが罰せられるというものでした。
この事件を契機に、国土交通省は2009年12月までに四号特例を廃止する旨を発表しました。
2007年
建築基準法が再び改正される
2005年から度々発生した大規模な耐震偽装事件を受けて、「建築確認の厳格化」「指定検査機関に対する監督強化」「違反者への罰則強化」を軸に、建築基準法改正が再び施行されました。
しかし、急な改正であったため、確認申請が下りない事案が急増して、着工戸数が減少、建築業界でも倒産が相次ぐなど多大な影響を及ぼしました。
〈参考ページ〉
帝国データバンク|建築基準法改正(2007年)後の倒産状況に関する検証調査
それによって、業界内から2009年までに予定された四号特例廃止に対する不信感や不安、反対圧力が高まっていったのです。
2007年
四号特例廃止の見送り
当初は2009年12月を期限としていた四号特例廃止が、建築業界の経済低迷などを理由に、無期延期とされました。
2018年
日本弁護士連合会が意見書を提出
日本弁護士連合会が、四号特例に該当する建物の安全性を確保する目的で、「四号建築物に対する法規制の是正を求める意見書」を国土交通省に提出しました。
この中には、「該当建築物の構造計算の義務化」、「壁量計算や技術的基準の見直し」、「該当建築物建築確認時の構造関係図書の添付義務化」が明記されており、今までのような省略や簡素化の全面撤廃を要請する旨が訴えられました。
〈参考ページ〉
日本弁護士連合会|「四号建築物に対する法規制の是正を求める意見書」
これは、耐震偽装などの構造瑕疵(かし)が発生した場合、特例によって建築士側が守られ、設計不備などの立証ができないケースが多発したことを受けたためです。これによって、国会でも四号特例廃止について再び議論されるようになりました。
2022年4月
四号特例縮小案が国会で可決される
四号特例縮小案が衆議院で可決され、今後は参議院を通過して法改正が施行される見込みです。2022年現在では、2025年からの実施が濃厚で、それに向けて設計事務所や施工会社は準備に追われています。
特例は縮小?それとも廃止?
四号特例について調べていると、「廃止」というキーワードと「縮小」というキーワードの両方を見かけます。
これにはきちんとした理由があります。
確かに法案では「縮小」とうたっているものの、建築士の中では「実質的には廃止も同然」と捉える人が多いためです。
では、なぜそのような意見が上がるのでしょうか?
まず、現行の特例対象とこの度決定した縮小法案を比較してみましょう。
【現行の特例対象建築物】
特例対象は建築基準法第6条第1項4号に記載された建築物(4号建築物)
〈特例対象〉
・特殊建築物ではなく、不特定多数が利用しない建物
・木造2階建て以下の建物は壁量計算や構造図が省略可能
・延床面積が500㎡以下の建物は構造計算書が省略可能
【縮小法案の内容】
建築基準法第6条第1項4号がなくなり、特例対象は新3号建築物
〈特例対象〉
・特殊建築物ではなく、不特定多数が利用ない建物
・平家の建物は壁量計算や構造図が省略可能
(木造と非木造の区別がなくなる)
・延床面積が300㎡以下の建物は構造計算書が省略可能
一見、それほど大きな改正ではないように思われるかもしれませんが、日本の住宅の大半を占める木造住宅2階建てが対象から外れることで、ハウスメーカーや工務店、設計事務所の業務内容は一気に増大してしまいます。
この点から、多くの建築士は「実質的には廃止も同然」という意見を挙げているのです。
■ 建築業界の反応は?
国土交通省の調べによると、2005年に確認申請審査の民営化が始まってからというもの、完了検査の実施率改善や違反建築件数の減少など明らかな効果が出ています。
完了検査実施率 | 1998年度・約38% → 2004年度・約73%に上昇 |
違反建築件数 | 1998年度・12,283件→ 2004年度・7,782件へ減少 |
つまり、建築確認審査の民営化自体は、建築の質を高めるために合理的な施策であったことが証明されているのです。
しかしその反面、四号特例を利用した悪質なケースは後をたたず、住人の生活を脅かすような耐震偽装などが多発しています。
このような根本的な問題を解決するために、今回の縮小法案が起案されました。
確かに、2025年以降は構造計算などの業務が増えたり、作成しなくてはいけない設計図書も急増するため、これまでの体制では対応しきれない会社も出現してしまうでしょう。
ただし、ここで忘れてはいけないのは、「四号特例縮小」はあくまでの住宅の安全性を高めるために決定した施策であるということです。
日経アーキテクチュアが建築実務者に行ったアンケート調査によると、四号特例縮小案に好意的な意見を持っている人が過半数であるという結果が出ています。
消費者の満足や安心した生活を確保するためにも、今回決定した「四号特例縮小法案」は決してマイナスではなく、むしろメリットとして捉えるべきでしょう。
■ “施主への誠意ある説明”が受注拡大のカギ
いざ四号特例縮小が実施された場合、おそらく一般消費者にもニュースなどを通して概要が伝えられるでしょう。
しかし、建築基準法や構造計算など専門用語が飛び交うため、全てを把握できる一般の方は少ないかもしれません。
そこでポイントとなるのが「誠意ある正しい説明」です。
縮小以後は様々な業務が増えるため、その分の費用はどうしても施主へのしかかることが予想されます。
しかし、その費用は法令を遵守し適正な方法で確認申請を行うためには必要不可欠です。
工務店や設計事務所は、その点を正しく誠実に施主へ伝える必要があり、その姿勢が受注拡大に間違いなくつながります。
「うちは縮小前と同じ価格で設計施工します」と価格競争に上がるのではなく、必要な経費は適正価格で受け取ることも重要です。
ですから、2025年の実施に向けて、社内の業務システムを整えると同時に、スタッフが正しい知識を得て、それを明確に伝えられるようにしておくようにしておかなくてはいけません。
法令遵守と持続可能なブランディングこそ、社会情勢に左右されない安定した経営を続けるカギとなります。
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■まとめ
「四号特例縮小」は、建築業界、とかく住宅業界に携わる人にとって大きな転機となる出来事です。
正しい知識で法令を守った誠実な企業と、そうでない企業が明確化されていくことも予想されます。
今後のビジネスチャンスを逃さないためにも、正しい知識の入手とそれを発信する力は欠かせません。
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