脱炭素住宅化が工務店に与える影響と準備しておくべきこと
高気密高断熱住宅、太陽光発電や蓄電池など再生可能エネルギー設備、ZEHなど、住宅業界でも環境問題への対策「脱炭素住宅化」が粛々と進みつつあります。
2020年は省エネ基準適合義務化が見送られたものの、いつ施行されるのか分からない状況を考えると楽観視はできません。
脱炭素住宅施策については国土交通省・環境省・経済産業省など複数の省庁が関係しており、住宅の現場にどんな影響があるのか非常に分かりにくい状態です。
そこで今回は、脱炭素住宅に関する政府の動きの中から、工務店様に影響を与え得る内容をピックアップして解説していきます。
目次
■脱炭素住宅とは
■脱炭素住宅が工務店に与える影響
■脱炭素住宅化に対し準備すべきこと
■すでに始まっている低炭素住宅施策
目次
■脱炭素住宅とは
脱炭素住宅とは、省エネ性能の向上や再生可能エネルギーの活用でCO2排出量を削減する住まいのことを指します。
2020年10月の臨時国会において菅義偉首相が宣言した「2050年カーボンニュートラル社会の実現」が発端となり、国内のエネルギー消費の3割を占める住宅業界でも大きな動きが生まれています。この宣言はパリ協定をはじめとする世界情勢によるところが大きく、実現に向けた取り組みの強化が予想されます。
国土交通省・経済産業省・環境省の三者が設置した「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」は2021年7月時点ですでに5回開催され、住宅業界を対象とした具体的な取り組み方針が話し合われました。
参照:国土交通省(脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000188.html
■脱炭素住宅が工務店に与える影響
脱炭素住宅化施策が始まった場合、現場のハウスメーカー・工務店様に直接影響がありそうな部分をピックアップして解説していきます。
・省エネ基準適合義務化
冒頭でも触れましたが、2020年に見送られた省エネ基準適合の義務化は、ビルダー様にとって一番影響が大きい部分です。検討会では次のような施策案が挙げられています。
・住宅も含めた省エネ基準適合義務の対象範囲の拡大
・適合義務化に向けた準備
・新築に対する支援措置に関する省エネ基準適合の要件化
・省エネ基準の段階的な引き上げ
すでに運用が始まっているZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)については2020年の目標が未達成のため、次の区切りである2030年を前に義務化に組み込まれる可能性があります。
義務化が実施されると、省エネ基準を満たさない住まいは建てられない、もしくはユーザーに選ばれにくくなるなどの影響が考えられます。段階的な引き上げや緩和条件などの施策も話し合われていますが、いつ省エネ基準が義務されても良いように構えておく必要があるでしょう。
・省エネ設備の導入推進
CO2を排出しない太陽光発電エネルギーや太陽熱・地中熱など再生可能エネルギーの導入推進も、現場の家づくりに大きく関わってくる部分です。
特に太陽光発電システムはCO2削減の肝となる部分であり、義務化案までは出ていませんが、新築では無視できない存在になってくるでしょう。2019年時点での住宅用太陽光発電普及率は9%ですが、今後普及率が伸びれば太陽光発電システムに対応できないと新築住宅が売りにくい状況になるかもしれません。
参照:一般社団法人 太陽光発電協会(太陽光発電の状況)https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/062_01_00.pdf
・長寿命化が求められる
二酸化炭素は冷暖房や給湯といったエネルギー消費だけでなく、住宅解体時に出る廃棄物の処理によっても発生します。住宅の長寿命化によって産業廃棄物を削減することも、これからの住宅業界に求められる要素のひとつです。検討会では建築から廃棄までのトータルCO2排出をマイナスにする、LCCM住宅(ライフサイクルカーボンマイナス住宅)の普及が掲げられています。
具体的には長寿命化につながる建材や工法の選択、図面やメンテナンス履歴の一元管理など、建物・管理両面での取り組み案が挙げられています。長期使用に耐えられる住まいづくりはもちろん、今まで以上に建てたあとの手厚いアフターフォロー体制が必要になるかもしれません。
参照:国土交通省(脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方(案))https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001415904.pdf
■脱炭素住宅化に対し準備すべきこと
上記の政策による影響に対応するため、工務店様が今から準備すべき取り組みを考えてきましょう。
・省エネ性能の底上げ
省エネ基準が義務化すると今以上に断熱性・気密性などが重視されることが予想されるため、今から性能を底上げしておくことが重要になります。
すでに省エネ性能はユーザーの住まい選びの指標の一つとなりつつありますが、義務化によって最低ラインが決まるとさらに性能競争が激しくなる可能性があります。2030年の普及目標が決まっているZEHはもちろん、ZEH+などさらに高い性能基準への対応も必要になってくるでしょう。
自社ラインナップの強化はもちろん、現場の技術体制も整えて新しい工法や技術に対応できるようにしておくことも大切です。
・太陽光発電関連設備への対応
前述したように脱炭素住宅のカギとなる太陽光発電パネルと、蓄電池をはじめとする関連設備への対応も不可欠と言えるでしょう。電気自動車やHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)といったシステムに関する知見や技術も、これからの時代は必要になってきます。
太陽光発電パネルは雨漏れリスクがあるため、早めに対応して実績を積み重ねておかないと工務店選びで不利になる可能性があります。太陽光設備はコスト増になるうえ2021年も売電価格が下がるなど厳しい状況ではありますが、仕入ルートや対応できる職人は早めに確保しておくべきでしょう。
すぐに自社で施工するのが難しい場合も、早めに協力業者を見つけておくのが良いかもしれません。
・商品力強化
省エネ性能や太陽光発電エネルギーはお施主様にとってメリットも大きいですが、建築コストが増加するのは避けられません。導入に関する補助金制度も検討されていますが、お施主様に価値や魅力を感じてもらえる商品づくりをすることも大切です。
設備や性能アップによる節約効果、断熱性アップによる快適性の向上など、データに基づくメリットを訴求できれば選んでもらいやすくなります。前述したように早めに施工実績を積み重ねることができれば、信頼性やデータの信ぴょう性も得ることができます。
最低限の省エネ基準にただ対応するだけでは選んでもらえない時代が来るかもしれません。自社の強みやコンセプトを基に、競合と差別化できるような脱炭素住宅商品を企画してみて下さい。
【関連コラム】⇒地域工務店の商品力強化~自社の本当の商品は何か?
■すでに始まっている脱炭素住宅施策
これから起こる大きな変化に対応するために、すでにスタートしている施策を活用して実績を積み上げていくのも効果的です。
・低炭素住宅認定
省エネ性能の基準を満たし低炭素化促進が認められた住宅に対し、住宅ローン減税や容積率の不算入などさまざまな優遇措置が用意されています。
参照:国土交通省(低炭素建築物認定制度パンフレット)https://www.mlit.go.jp/common/000996590.pdf
・ZEH/LCCM
前述した低炭素住宅施策の一つであるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)に対する補助金制度がすでにスタートしています。
参照:国土交通省(ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅関連事業(補助金)について)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000153.html
・グリーン住宅ポイント制度
上で紹介した低炭素住宅認定・ZEHなどの条件を満たした住宅に対してポイントを発行する補助制度です。ワークスペース設置やウイルス拡散防止工事などにポイントを割り振ることもできるなど、お施主様への提案バリエーションも多数考えられそうです。
参照:グリーン住宅ポイント事務局(新築住宅の建築・購入 対象要件等)https://greenpt.mlit.go.jp/new-house/
■まとめ:脱炭素住宅の準備を一つずつ進めていきましょう
住宅業界のCO2削減は地球環境の保護という点でも重要ですが、省エネ基準義務化など経営にも大きく影響する喫緊の課題でもあります。2030年が第一段階の目標となることを考えると、早めに着手すべき問題だと言えるでしょう。早い段階で省エネ住宅の実績や施工体制を構築できれば、自社商品を強化してくれる強い武器にもなり得ます。難しい部分もありますが、一つずつ取り組んで課題をクリアしていきましょう。
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